今日のお客様

「今日のお客様」

夕方近くに、一人の女性が来店されました。

「予約はしてないんですけど、やってくれるところを探してて、ここはやってもらえますか?カットとパーマ」

その時私の予約がお一人様分ちょうど空いていたので、お受けすると、

「じゃあ本人連れてきますから、あと15分後くらいにまた来ます」

とおっしゃって出ていかれました。

どうやらそのかたは娘さんのようで、90代になるお母さんを連れてくるということのようでした。

 

そしてまつこと30分。

先程の女性と、そのあとをだいぶゆっくり歩いてこられるおばあちゃんが来店されました。

そのおばあちゃんは、腰や背中もだいぶ丸くなって、きっと背も若いころの半分くらいになったんじゃないかなと思うくらい小柄で、髪も普通のおばあちゃんのショートカットのスタイルより、ボブくらいにだいぶのびて、目が前髪で隠れるくらいになっていました。

 

「この前転んじゃってね… あぃたたたた…」

というおばあちゃんは階段をのぼるのも、手すりに捕まりながらがやっとでした。

一段一段ゆっくり階段をのぼりながら、

「一度、ここ来てみたかったのよね…」

といわれた時、90歳のかたにもそんなふうに言っていただけて、嬉しく光栄におもいました。

そのおばあちゃんとゆっくり歩幅を合わせながらシャンプー台までご案内して、シャンプー台のイスに座ってもらいました。

 

腰も背中もまるいおばあちゃん。

背もたれを倒すとやはり頭がシャワーを当てる位置までとどきませんでした。

それならと、一度イスから降りていただき、座高がまだ足りない子供用のクッションをしきました。

でも今度はそれのせいでイスの座る面の位置が8センチほど上がったので、

「こりゃ座れるかいなぁ…」と不安そうに試みるおばあちゃん。

「よい…し…ょ」。。。なんとか座れました…!

そして背もたれを倒しました。

 

…今度こそ届くか…?!?!

 

 

がしかし、とどかず…!

このままではおばあちゃんに無理な体勢で大変な思いをさせてしまうので、

「では別のシャンプー台もあるのでそちらで試してみましょう!」

とベットみたいにフラットになるシャンプー台へとごあんないしました。

痛い方の膝に手を当てながらすり足で小刻みにあるくおばあちゃんを、余分にあちらこちら歩いていただくのは申し訳ない気持ちでした。。。

そしてベットタイプのシャンプー台で、先程のように背もたれを倒し寝ていただくと、今度はなんとかギリギリ大丈夫そうでした…!よかった!

「それでは今から髪をお湯で濡らしていきますね」

と髪や地肌をシャワーで流し始めると

「あ~ちょうどいい加減  気分がいい。気分がいい。」

と言ってくださって、リラックスしてくださっている様子でした。

 

シャンプーしながらご自分の事を話してくれました。

「私はついこの間まで、自転車に乗っていたのよ、でもドジな車と、ちょっとぶつかって、ケガはしなかったんだけど、もう乗ってはダメだといわれてね…自転車に乗れなくてさびしい」

とおばあちゃん。

「90歳で自転車に乗っていたんですか…?!」

と本気でびっくりする私。

正直、自転車に乗っているのが想像できないくらい背中もまるかったので、その姿を想像し、さっき密かに、ぶつかった車をドジとディスっていたところに、なんだかププッと心の中がくすぐられるような、おばあちゃんのかわいらしさとユーモアを感じました。

そしてシャンプーを終え、カットをする準備をしました。

クロスをかけて、

「髪型は何かご希望はありますか?」

と聞くと、

「なんでもいいよ」

とのことでした。

「じゃあ似合う感じでスッキリしたショートにしますね」

とお伝えしてカットを始めました。

 

まぁるい背中から自然と、前のめりに下を向くおばあちゃんに合わせて私も前のめりになりながらカットをしました。

 

ひととおりカットを終えて、一度見ていただくと、顔をあげて鏡をみたおばあちゃんの目がみるみるまんまるになり、

 

「わああああ、キレイになって、こんなにキレイになったら困っちゃう」

といいながら、見せてくださった笑顔は、子供のように純粋な満面の笑顔でした。

私は、笑顔を見ることが多い職業についていますが、そのおばあちゃんの笑顔は、なんというか、本当に心に残る素敵な笑顔でした。

『90歳の笑顔』

90年分の何かを感じる笑顔でした。

本当に、お金には変えられない価値を感じる笑顔を見れたとき、この仕事について、今までやってきて、本当によかった!と思えました。

 

その後、無事パーマも終わったのですが、ここでも

「前のパーマは田舎の大仏だった」

とまたディスッっておられました。(笑)

そのあと、仕上げのセットをし、帰っていかれました。

私のほうがお金に代えられない喜びを感じさせていただいたお客様でした。

 

また次回のご来店が、本当に楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 

この記事を書いた人

堀尾 枝穂
堀尾 枝穂
美容師になって16年。お客様からたくさん元気や幸せをいただいてきたから、お客様にもこの先、ずっとそれを返し続けられる美容師でいたいです。
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